預金の相続手続きについて
1 相続人全員の合意の上での預金の相続手続き
預金の相続手続きをするには、基本的に、相続人全員の合意で、手続きをすることになります。
相続手続きの流れと必要な書類は、遺産分割協議書が作成済みの場合と作成済みではない場合とで、異なってきます。
手続きの流れは、金融機関ごとに異なる部分もありますが、多くの金融機関では、おおむね、以下の流れで相続手続きを行うこととなります。
⑴ 遺産分割協議書が作成済みの場合
遺産分割協議書が作成済みの場合には、遺産分割協議書で預金を取得するとされている相続人が、各金融機関の相続手続き依頼書を作成し、手続きを進めることとなります。
相続手続き依頼書は、各金融機関によって名称が異なりますが、まずは、口座のある金融機関の支店や相続センターに連絡をして、相続手続きに必要な書類を取り寄せます。
ア 遺産分割協議書の作成・印鑑証明書の添付
相続人全員で協議を行い、誰がどの遺産を取得するかが決まると、遺産分割協議書という書面を作成することとなります。
遺産分割協議書では、誰がどの預金を取得することになったのかを記載する必要があるため、これが不明確な記載だと、金融機関は払戻しに応じてくれませんので、注意が必要です。
遺産分割協議書では、「●●(相続人)は●●銀行●●支店の預金のすべてを取得する。」というように、金融機関と支店名を特定した記載にする形でも構いませんし、「●●はすべての遺産を取得する。」というように、包括的に取得する旨の記載にする形でも問題ありません。
そして、遺産分割協議書には、相続人全員の実印で押印し、相続人全員の印鑑証明書を相続手続きにおいて提出する必要があります。
印鑑証明書は、発効後6か月以内のもの(一部の金融機関では3か月以内のもの)が必要とされるなど、期限がありますので、注意が必要です。
遺産分割協議書に押印された印影は印鑑証明書のものと照合されますので、印影が鮮明に写るように押印するようにしてください。
印影が不鮮明である場合は、もう一度作成しなおさなければならなくなる場合があります。
イ 相続関係を明らかにする戸籍の収集
相続関係を明らかにするため、必要な戸籍を提出します。
例えば、被相続人の相続人が配偶者と子のみである場合は、被相続人の出生から死亡までの戸籍、子の現在戸籍を収集する必要があります。
相続関係を明らかにするためには、どのような場合であっても、被相続人に関しては出生から死亡までの戸籍が必要となります。
被相続人が転籍しており本籍地が変更されている場合には、変更前の本籍にさかのぼって、戸籍を収集する必要があります。
そのため、人によっては戸籍が大量になることもあります。
法改正により、収集したすべての戸籍を法務局に提出し、相続情報証明を作成してもらうこともできるようになりました。
相続情報証明を作成すれば、戸籍の代わりに、相続情報証明を使用することで手続きを進めることもでき、手続きのために戸籍の束を持ち歩く必要もなくなります。
相続情報証明は、現在ではほぼすべての金融機関で利用することができます。
※参考リンク:法務局・「法定相続情報証明制度」について
ゆうちょ銀行については、本記事執筆時点では、相続確認表という独自の書式に相続関係等を記入し、提出する必要があります。
相続確認表は、ゆうちょ銀行の窓口で取得できるほか、インターネット上でも取得することができます。
※参考リンク:ゆうちょ銀行・相続手続きの流れ
ウ 金融機関への書類等の提出と相続手続き依頼書の作成
遺産分割協議書、相続人全員の印鑑証明書、相続関係を明らかにする戸籍が集まったら、これらを金融機関に提出します。
預金通帳、キャッシュカード、預金証書が手元に残っている場合は、あわせて提出します。
これらが手元に残っていない場合は、紛失の届出等を行います。
金融機関は、これらの書類等の提出を受けると、相続手続き依頼書の書式を交付してくれます。
遺産分割協議書を作成済みの場合は、預金を取得する相続人のみが、相続手続き依頼書を作成することで、手続きを進めることができるのが一般的です。
作成済みの相続手続き依頼書を提出すると、相続人の側で行うべき手続きがひとまず完了します。
エ 金融機関からの振込み
相続手続き依頼書を提出後、提出した書類に問題がなければ、金融機関から払戻金の振込みがなされます。
ゆうちょ銀行については、貯金を相続した相続人がゆうちょ銀行に口座を有していない場合は、ゆうちょ銀行から証書を送付してもらい、証書をゆうちょ銀行の窓口に持参したうえ、現金で払戻金を受け取る必要がある場合があります。
オ 必要書類
遺産分割協議書が作成済みの場合の相続手続きに、一般的に必要とされる書類を改めてまとめると、以下のとおりです。
- ① 遺産分割協議書
- ② 相続人全員の印鑑証明書(発効後6か月以内のもの、一部の金融機関では3か月以内のもの)
- ③ 相続関係を明らかにする戸籍
- ④ 預金通帳、キャッシュカード、預金証書(手元に残っている場合)
- ⑤ 相続手続き依頼書(預金を取得した相続人が署名、押印したもの)
⑵ 遺産分割協議書が作成されていない場合
遺産分割協議書が作成されていない場合にも、預金を解約することはできます。
この場合には、相続人全員がそれぞれの金融機関所定の相続手続き依頼書を作成し、手続きを進めることとなります。
ア 相続関係を明らかにする戸籍の収集
遺産分割協議書が作成済みの場合と同じく、相続関係を明らかにする戸籍を収集します。
イ 金融機関への書類等の提出と相続手続き依頼書の作成
相続関係を明らかにする戸籍が集まったら、これを金融機関に提出します。
預金通帳、キャッシュカード、預金証書が手元に残っている場合も、併せて、金融機関に提出します。
金融機関は、これらの書類等の提出を受けると、相続手続き依頼書の書式を交付してくれます。
この場合の相続手続き依頼書は、基本的には、相続人全員で相続人代表者を指定し、その相続人代表者に手続きを依頼するという形式のものとなります。
このため、相続手続き依頼書には、相続人全員が署名し、実印で押印する必要があります。
そして、相続手続き依頼書を提出する際に、相続人全員の印鑑証明書を添付する必要があります。
作成済みの相続手続き依頼書と相続人全員の印鑑証明書を提出すると、相続人の側で行うべき手続きがひとまず完了します。
ウ 金融機関からの振込み
相続手続き依頼書を提出後、提出した書類に問題がなければ、金融機関から払戻金の振込みがなされます。
ゆうちょ銀行については、現金で払戻金を受け取る必要がある場合があることも、遺産分割協議書を作成済みの場合と同様です。
エ 必要書類
遺産分割協議書が作成済みではない場合の相続手続きに、一般的に必要とされる書類は、改めてまとめると以下です。
- ① 相続関係を明らかにする戸籍
- ② 預金通帳、キャッシュカード、預金証書(手元に残っている場合)
- ③ 相続手続き依頼書(相続人全員が署名、押印したもの)
- ④ 相続人全員の印鑑証明書(発効後6か月以内のもの、一部の金融機関では3か月以内のもの)
2 預金の相続手続きの流れと必要書類(相続人全員の合意によらずに手続きを行う場合)
⑴ 相続法改正
以上のとおり、預金の相続手続きを行う場合には、基本的に、相続人全員の協力が必要となります。
ただし、相続法の改正により、例外的に、以下のいずれか低い金額までは、各相続人が単独で預金の払戻しを行うことができるようになりました(「預貯金の仮払い制度」などと呼ばれています)。
- ・ 相続開始時の預金額×3分の1×払戻しを行う相続人の法定相続分
- ・ 金融機関ごとに150万円
⑵ 手続きの流れと必要書類
どの金融機関でも、おおむね、相続関係を明らかにする戸籍を取得し、金融機関が作成した払戻請求書に払戻しを請求する相続人の実印を押印し、その相続人の印鑑証明書とともに提出することで、払戻しの手続きを進めることができます。
必要書類は、以下のとおりです。
- ① 相続関係を明らかにする戸籍
- ② 相続手続き依頼書(払戻しを請求する相続人が署名、押印したもの)
- ③ 払戻しを請求する相続人の印鑑証明書
3 預金の相続手続きについてのご相談
弁護士法人心では、相続関係を明らかにする戸籍等の必要な書類を取得した上で、金融機関とやり取りを行い、代理人として預金の相続手続きを行っています。
相続手続についてお困りのことがありましたら、名古屋駅すぐに事務所がある当法人にご相談ください。